mail-logo-official

画家川田祐子のニュースレター@No.76

readerreader様

三寒四温、一雨ごとに暖かくなって行く軽井沢からお便り申し上げます。

寒い日は、近くの浅間山は霧や雲に覆われていることもありますが、白い小さなコブシの花が咲き始めるやいなや、町の至る所で、花が一斉に咲き始めました。今は近くの離山の桜も見ごろです。今年は少し濃く鮮やかなように感じられます。

先月の23日から、『軽井沢アトリエ日記』を毎日記録するようになりました。当初は自分の制作について話せるくらいの英語力を身につけるのが目的で英訳版のブログも記録しています。本当は自分の制作について英語で話せるぐらいになりたいのですが、まずは日記の習慣を生活に根付かせるために、ゆっくり焦らずに続けています。

今日は全国的に気温が上昇するという予報、 reader様、季節の変わり目、どうぞ健康第一で五月晴れの行楽シーズンをお楽しみくださいますように。
                                       画家 川田祐子
空と枝のエチュードーp
2023
watercolor pencil on gray paper
画:37.8x25.2cm
紙:39.6x26.5cm
詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/soratoeda-etude-p/

作品「空と枝のエチュードーp」

これまでの制作を振り返ってみて、私の絵画の源泉が、版画やドローイングから来ていることに改めて気づかされました。もともとスクラッチの技法は、1998年にドライポイントでリトグラフを制作した経験が元になっています。アクリル絵具を層状に重ね塗りしたキャンバスにスクラッチをするというのは、版画の版そのものを作品として見せる行為に近いのです。また2014年までは、素描を制作することなく、絵画自体が下絵や計画のないドローイングであったという時代がありました。(この続きは、『軽井沢アトリエ日記』に書きました。)

このようなことを考えつつ、この「空と枝のエチュードー淡く」が今月生まれて来ました。いつもよりも、より即興的でラフなところで止めています。こうしたドローイングの方向性もあって良いと感じています。一見粗野に感じるかもしれませんが、ドローイングとは、もともと素描であるものです。

これまでの私は「絵画は版画のように、ドローイングは絵画のように、版画は???」と、ふと立ち止まって考え直してみました。これからは、「絵画はより絵画らしく、ドローイングはよりドローイングらしく、版画は手工芸のように緻密に」制作してみてはどうかと考え始めています。制作は頭で考えているようには実現できないところもあります。しかし方向性を持つことはとても重要なことです。

このドローイングは、エチュードというように、習作であり、試作です。そういうものをすぐに値段をつけて販売して良いものかどうか少し迷いました。しかし、これまでの経験で、私の場合下絵やあらかじめの構想図版を元にして作品を描くと、作品がとても硬くなります。 (そういうものが本来の絵画らしい絵画とも言えますが)そこで、やはり販売して手放した方が良いと判断しました。私の作品販売のコンセプトにご興味がある人は、続きをブログ記事『まだ評価が定まらない絵画作品を人々が負担なく自由に個人の意思で選び、購入する社会』をお読みください。

今月のその他の制作


今月は突如として無性にドローイング制作がしたくなりました。先月の版画制作で、版画では難しいことをドローイングにまず描いてみようという気持ちが起きて来たからです。手を動かしながら、自分自身の絵画、ドローイング、版画、それぞれの制作意図や特徴を、明確に区別したり交錯させたりする度合いを、考えさせられました。

ここでご紹介するものは制作した一部です。実験的に描いたもの、小さなサイズのものなどまではご紹介できません。もう少し実際の制作を覗いてみたいという方は、日々の制作生活を綴っているブログ『軽井沢アトリエ日記』をお訪ねください。

空と枝のエチュードー陰影
2023
watercolor pencil on gray paper
画:37.8x25.2cm
紙:39.6x26.5cm
詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/soratoeda-etude-c/

上記の『空と枝のエチュードー淡く』の連作として制作しました。私は2012年に「鳥は見ている」という作品、2018年の「春来」という作品で、ずっと木々の間から空を見上げて見える空を追いかけています。ここからはもう少しあやふやで見る人がさまざまなものを思い浮かべられる懐の大きい作風に育てて行きたいと考えています。
緑と空のエチュード
2023
acrylic ink and gouache on paper
画:37.7x27.4cm
紙:38.7x28.4cm
作品詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/midoritosora-etude/

『空と枝のエチュード』シリーズの前に手がけた作品です。緑に包まれる空気感や光を紙の上に出してみたいと描きました。ステンドグラスの光彩のような効果が出ました。ここまで緻密にしてしまうと、素描の範囲を越えてしまいます。それが私らしとも言えますが、少しラフな素描の良さに向かってみようと思えた意味で、良いきっかけになった作品とも言えます。
緑光
2023
acrylic ink and gouache on paper
画:37.7x27.4cm
紙:38.7x28.4cm
詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/ryokkou-drawing/

前述の「緑と空のエチュード」の前に描いたものです。何度も線描を重ねたので、このように画像に縮小すると、画面に厚みや深さが見えてきます。こういう効果が私を線描にかき立てます。使用しているacrylic inkは、フランス製のセヌリエ社のブラシペンです。良質な顔料を使用した専門家用の画材として販売されているものです。(詳しくは軽井沢アトリエ日記をご覧ください。)さまざまな
水と枝のエチュード
2023
acrylic ink and gouache on paper
画:37.7x27.4cm
紙:38.7x28.4cm
詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/mizutoeda-etude/

このドローイングは、以前制作した『春来』という水彩のドローイングを意識したものです。この制作に際し、同じようなものがまた描けるだろうか?と思い起こしながら描いたのですが、そのようにして描いても同じようにはなりませんでした。このような構図からまたもう少し発展させたものを描いてみたいという気持ちがあります。
ブルーとスカーレットの光作
2023
watercolor pencil on paper
画:27.6x18.4cm
紙:28.6x19.2cm
詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/bluetoscarletnokousaku/

植物を感じるシリーズとして描き始めました。もう少し描き足そうとも思ったのですが、これはこれとして残しておくことにしました。また続きは別の作品として出した方が良いと感じたからです。
このようなシリーズは、先の空を見上げるシリーズとは別に、私が足元の道草としてずっと大切にして来ている植物系のシリーズです。
このドローイングでは、ブルーと赤の色相の違いで思わぬ空間表現ができることを発見しました。赤は、色の中で意外に明度が低いので、奥行きの効果を出し、空色は、抜きの効果があるので、組み合わせると透明感が見えてくることがあるのです。
以上の今月の新作は、下記の仮想空間で展示中です。
*↑上の展示風景画像をクリックで、実際の仮想空間の展示に入り、今月の最新作を含めた2023年制作作品の数々を、是非壁にかけた状態でご覧ください。

画家川田祐子自伝

悔いのない人生

1980年代を今振り返るに、本当に私は若かったし未熟だったと恥ずかしい気持ちで、この自伝を書いています。しかし、当時の私はそれなりに一生懸命生きていたのであり、何も未熟だとは思っていなかったのです。おそらく今の私自身も、まだ近い将来から見れば、まだまだ至らぬところが多々あると思います。

そういう目で広く世間を見渡せば、何も不足や不満などあるはずがないのですが。

うまくいかないこと、厄介なこと、変だなと思うことが多い人生でしたが、それらは今思えば、美しくさえ感じることばかりです。完璧であれば、正当であれば満足かといえば、そのようなことはなく、むしろ人生とはうまくいかないことこそがあって、面白く、生きているんだという実感があります。

あまり考えずに、両親を安心させることが良いことだと判断して私立大学付属の中・高等部の教員として就職した私でしたが、変だなと思うことが重なったおかげで、「どうにかしなければ、私らしさが失われる人生になってしまう」と強く思うことができたのでした。もしその経験がしっくりしたものであったなら、今の私はないのです。アーティストを志すなどその時点の私には何も想像だにしていなかったのでした。

就職後2ヶ月にして人事部に辞職願書を提出した私は、7月の大学院受験に向けて準備し始めたのでした。試験は英語の読解とデッサンの実技ということでした。昼間は通勤し、帰宅後に必死になって猛勉強。しかし、何も辛くはなくて、むしろ心から勉強が好きなのだと自覚することができたのでした。

その気持ちが今でも本当のことであったのは、当時こういうことがあったからです。

私の家は、家中至る所に本が置かれているという家でした。理由は、長年父が行きつけにしていた古本屋があり、そこから買ったものがほとんどでした。その本屋は、横須賀の安浦という下町にある「港文堂」という古本屋。その地域は、近くに防衛大学があって、語学書、理系、人文系、医学書、というような専門書が安く買えるお本屋でした。その店主が、大変変わった人でした。幼い頃から私の目には、宇宙人のように思えるような人でした。とにかく博学で、どのような専門領域も見識があり、そのお店にない本でも神田の古本屋街のどこのお店のどの棚にあるかまで知っていた人でした。とても早口で、生き字引き、今で言えば「歩くWikipedia」もしくは「ChatGPT」と言ったところでしょうか。次々と何でも詳しく話してくれるのです。

ところが、この店主が、ちょうどこの頃に突然亡くなったという知らせが届いたのです。確か50代後半というような若さだったと思います。「大腸癌で、若かったせいであっという間に」ということでした。

父は社交儀礼が受け付けない性格でしたので、母が家族代表で、お花とお香典を包んでいくことになりました。そして帰宅後このような話をしてくれたのでした。

母:「玄関を入ろうとしたのだけど、そういえば昔から知っている人なのに、お名前が全くわからなかったから表札を改めて見たら、今までに見たことも聞いたこともない苗字だったのよ。」

私:「なんて言う名前だったの?」

母:「それが、あまりにも不思議な名前で、今でも思い出せないの。不思議よね。」

家族:「へ〜」一同唖然。

母:「それでね、玄関入って、『お仏壇はどこですか?』って、聞いたら、『うちは無宗教なので特にそういうものはありません』て言われてね。お線香やお花を置く場所もないのよ。何をしたら良いかわからなくて気づまりで変、わっているなと思ったら、『どうぞ座敷に上がってお茶でも飲んでいってください』って言われるから、お話だけでもって言って聞いて来たの。」

私:「それから、それから?」

母:「昔しお店に出ていた先代のお婆さんが自分の娘に丁度いいって見初めて、お店に通っていた本好きで勉強熱心だった青年を養子に迎えたんですって、それが亡くなった店主さんだったそうよ。随分断られたらしいの。

大学に進学したいからって。でもあまりにも本について詳しいから、どうにかして引き留めて無理矢理のようにして結婚させたんですって。養子になってからも、大学進学を諦められずに、お店の本は全部読んで記憶して、いつでも大学受験ができるようにしていたらしいの。でも結局仕事が忙しくてその夢を諦めたんだけど、防衛大学の学生さんたちの課題のレポートや卒業論文の代筆までしていたらしいの。

そしてね、語学はエスペラント語、スペイン語、イタリア語、フランス語、中国語、ドイツ語、英語何でも読める力があったから、最後病院で診察を受けた時に、担当の医師のカルテがドイツ語で、「癌」って書かれて、ご本人にわかってしまったんですって。

辛かったでしょうね、って言ったら、『本人は、心の準備をして最後を迎えたから、きっと悔いはないだろう』って奥さまが言ってらしてね。でもまだお若いのに、本当に辛いような話。」

私は、この母の話が、とても悲しくて悲しくて、今でも思い出すと心が締め付けられる思いです。この話を聞いた瞬間に、私は「悔いが残るような人生にしてはいけない。好きな勉強を諦めてはいけない。」と心に誓ったのです。

もしこの古本屋のおじさんの出来事が無かったら、もしかしたら大学院進学への猛勉強はなかったし、今の自分すらなかったとも思うのです。(次号につづく)

YouTube 動画配信


2023/04/15配信 みんな最後はミケランジェロになっていく【雑談】
https://youtu.be/8EFWcELtyb8

2023/04/08配信 絵画のタイトルに人は何を求めたのか【絵画とタイトル5】
https://youtu.be/zaryLFffNUg

2023/04/01配信 なぜターナーの絵は光がまぶしいのか【絵画とタイトル4】
https://youtu.be/nnsijoqknXk

2023/03/25配信 風景画であることを貴族や教会にバレないようにする裏技【絵画とタイトル3】
https://youtu.be/AbfYdXemLwk

3月11日から配信している内容は、『絵画とタイトル』と言う書籍を元にしています。その本で紹介されている作品画像はほとんどがモノクロで、サイズの表記もありません。そこで、サイズをネットで調べ上げ、カラー画像を拾って、仮想空間に展示してみました。作品をより詳しくご覧になりたい方は、是非下記リンク画像から仮想空間の展示もご覧ください。
画家川田祐子のニュースレター」は、
応援して下さる方々に向けて、
毎月1回手動で無料配信するメルマガ・サービスです。
次号は5月20日の送信予定です。
(かわだ ゆうこ)

YUKO KAWADA Official Site

https://kawadayuko.jp
Email Marketing Powered by MailPoet