ヘッダ
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画家川田祐子のニュースレター@No.43

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readerreader 様

 

今年の長く続いた雨は、各地に甚大な災害を引き起こしました。被害を受けられた皆様に、心からお見舞い申し上げます。

軽井沢は昨日からお天気が回復し、何事もなかったかのようですが、つい先日、初めてのコロナ感染者が1名あったということが町の広報で発表されました。軽井沢に住居のある人で、都内と軽井沢を仕事で行き来していた会社員ということでした。実は、、町内のホテルや旅館では、都内からの宿泊客が、密かに都内や近隣地域の病院に搬送され、その後コロナ陽性であったということが起きているらしいということも耳にします。町内には対応できる病院がないので、できる限り感染拡大地域には出かけないよう、町役場からの呼びかけも始まりました。

予定では、今月末に、8月からの展示の作品搬送の予定が組まれていましたが、搬送業者が都内から来ることと、展示会場のある県も感染拡大が起きている地域であること、町内が町を出ての仕事に敏感になっている空気などから、私の気持ちに不安があることを主催者に伝えました。「丁寧に発表したい」「慎重にしたい」という私の姿勢も加えて。

結果、主催者側で検討し、中止ではなくしばらく見合わせ、良いタイミングでしましょうということになりました。少し残念ではありますが、一方で私の本当の気持ちを伝えることが出来、ホッとしています。大作制作は、焦ることなくコツコツ時間をかけ、またドローイングも自由に行う余裕のある制作を目下日課としています。

大作発表を心待ちにしている方々には、今しばらくお待ち頂きますが、必ず皆様が喜んでくださるような結果になると思いますので、ご了解のほどよろしくお願いいたします。

感染が再び拡大し始めている状況は明らか。reader様、どうぞ、くれぐれもご用心されてお過ごし下さいます様に。

                                      画家 川田祐子

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雪波

雪波
2008-2013
scratch and hatching
acrylic gouache on canvas
162X194cm

Private Collection

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作品「雪波」

この制作のきっかけは、山形の冬の蔵王に樹氷を見に行く旅から始まりました。私の制作では、白描線が、とても重要な手法になっていて、雪や氷の観察をするためでした。蔵王宿泊で利用したペンションでは、オーナーからとても良い話が聞けました。

「山は上から下に向けて、少しずつ少しずつ毎日動いている」というのです。不動の山というそれまでのイメージが、私の中でその瞬間崩れました。不動性よりも絶えず変化していく微動を感じる画面を作りたいと思うようになりました。

 当時の私は、日々借金返済に追われる生活をしていました。副業はせずに、制作で返済する力を持ちたいと、悪戦苦闘していた頃のことです。

この制作の途中では、2009年に世田谷の碑文谷で公開制作のイベントも行いました。作品自体もアトリエから移動させてみようという試みです。その頃始めたツイッターで知り合った、大家さん、建築士さん、庭師さん、アパレルデザイナーさん、そして画家の私という、異業種交流による展示「ブルジョア・ボヘミアン(略してブルボヘ)」のメイン・イベントでした。毎日ちょっとした小洒落た空間に人々が集い、私の制作が披露され、刺激的な交流ができました。

主催者は、作品の販路と出会うきっかけ作りになればと思ってお誘いくださった訳ですが...。結局、北欧家具、観葉植物、オーダーメイドの洋服が並ぶ展示空間、そして気持ち良いオープンカフェ&ワインバーのお店などの多目的空間の中で、私の作品は良い意味で溶け込みすぎて「販売している」という主張が出ないことに初めて気づいた経験になりました。他業種の人たちにとっても、思ったほどの結果にならなかったようでした。

後から思うに、それは長く続いている経済不況から、なんとかして脱したいという個人事業主たちが、藁をも掴んだその藁を、束ねて一艘の小舟を編み、乗り込んだような出来事でした。結局その出来事は私にとって、オーソドックスな画廊での個展発表へ強く回帰させることになりました。

と同時に、この大作制作に向かう瞬間のみが唯一、「画家として生きている証になる」と強く感じるようになって行きました。自分なりの一種の信仰のようなものが始まりました。

しかし一方で、私はまだまだ若く(当時50歳手前でした)、新しいことへの意欲を燃やし続けていました。ブログを書き続けていた私は、『ロングテール』という本に感化されて、コアな絵画こそ、インターネットでのオンライン販売に可能性があるのではないかと思うようになりました。手始めに海外サイトe-BayやEtsyなどでプリント作品を販売する準備を始めました。ところが、始めたその瞬間に、2011年3月11日、大震災が起きたのでした。

私はなすすべもないにもかかわらず、まだ「なんとかしなければならない」と右往左往していました。同時に色々なことが重なり、そのベクトルが大波とともに私を長野に押しやったのでした。

見知らぬ土地で、しかし常にアトリエにはこの作品があり、画面に向かうことで自分自身を取り戻すことができたのでした。この作品の前で動画を撮影し、寄付を募ったこともありました。制作の状況や日々の思いを綴るブログ記事も書き、日々、「もうダメかな」と半ば諦めながらも制作に向かうと、次の日にはなぜか問題が解決して行くのでした。一つ一つの出来事に、少しずつの気づきがあり、結局は「制作に向かうことが唯一自分を成り立たせる」という信仰が一層強まるのでした。

しかし頭では何となくわかっていても、行動にまで落とし込めていないことがたくさんあるものです。私はまだまだ右往左往している部分がありました。その結果が、みぞれ雪の降る中での骨折事故。2012年3月に下旬に慌てて新宿から帰宅した私は、足を滑らせて入院。そのことを反省を込めてブログ記事に正直に記録したのでした。

それからは「こうしなければ悪いことが起きるのではないか」という強迫観念で動くのではなく「どうしてもこれをしたい、これをすることが私の幸せ」という気持ちから行動することにしたのでした。

どういう巡り合わせなのでしょう。たまたまその記事を読んだ見知らぬ人が、この作品を画廊を通して買って下さったのです。後から聞いた話ですが、知人が大腿骨骨折で悩んでいたことがきっかけで、ネットサーフィンしながら調べているうちに、私の記事に出会ったとか。

この作品を制作することで、得た教訓は数多く、計り知れないことばかりですが、実は、現在の世界的な危機の状態の中で、私はすでに前準備をさせてもらっている気がしてなりません。

「悪くならないようになんとかしよう」とすればするほど、自体は悪化しましたが、明らかなことは、「じっとアトリエにこもり、この制作に集中することが私の幸せ。と感じる生活によって、問題が解決し、難から逃れることができた」のです。その途中には、震災や骨折事故まで経験しましたが、常にこの作品が私を守り導き、結果的に私の想像のつかない方法で、私を救う最終章まで用意されていたのでした。

今このタイミングで、横須賀美術館にこの作品が展示されている意味は、またとても大きいものがあります。この作品が私に与えた教訓は、きっと誰にでも当てはまることに違いないからです。

重要なことは、「何かをしなければならない」のではなく「あるべき姿でそこにそうある」ことが大切なのだと今は頭で理解するだけでなく、行動も伴うようになって参りました。

この作品は美術館に展示中ですが、この状況で「見に行く」ことが重要なのではなく、むしろ「そこにそうあることを」知ってもらうだけで十分であることも、最後に付け加えておきたいと思います。

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展示のご案内

 

横須賀美術館 第2期所蔵品展 
期間:2020年6月20日(土)~2020年9月13日(日)
休館日:7月6日(月)、8月3日(月)、9月7日(月)
観覧料:一般380円、高・大・65歳以上280円
 *谷内六郎館も観覧できます。*()内は20名以上の団体料金
*中学生以下無料、高校生(市内在住または在学に限る)は無料。

所蔵者寄託作品として、上記『雪波』が展示されています。
下記美術館サイトリンクをクリックで作品画像も小さいですがご覧になれます。
https://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/josetu/sho2002.html

 このような感染再拡大の状況下ですので、情報のみで失礼致します。

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今月の制作

 

このところ、ドローイング制作に熱が入っています。理由の一つは、これまで紙の上に制作してきた作品の画像を整理して、新しくWEBサイトを作ったこと。そして、個人事業主対象の持続化給付金によって、描画材や紙を自由に購入できていることも要因の一つです。

ドローイングの良さは、完成にこだわらず、試作や習作で終わらせることができる点。

今は、これまでの制作手法にとらわれることなく、自分自身の様々な可能性を掘り下げていく時間を特に大切にしています。

ドローイングの制作の積み重ねは、必ずキャンバスでの制作に大きな影響をもたらします。そう信じて、あまり焦ることなく、毎日コツコツと作品数を増やしています。

これまでの紙上制作の流れは、下記サイトでご覧頂けます。約190点の作品をアップしました。お時間のある時に、是非お立ち寄りください。

YUKO KAWADA  on paper: https://kawadayuko.jp/drawing-new

内なる自然

内なる自然
2020
graphite and white pencil on paper
紙:54.8x37.4cm
画:53.8x36.4cm

詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/uchinarushizen

 

フランスのキャンソン・ミ・タントのフランネルグレーという紙に、スイスのカランダッシュの水性色鉛筆の白とグラファイト鉛筆を使っています。このフランネルグレーという少赤みがかったグレーを、白と黒で引き締めていくと、独特な温かみのある空間が生まれます。この魅力に導かれて、制作が進みます。細かく白線を残しながらも、何らかの秩序や法則性が出てきたらと思っています。

こうしたシリーズは、しばらく続けていきたいと思っています。色味のある作品も数点制作しましたが、発表はもう少し温めて次回にする予定です。

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ヒヤシンスの夢

源流への旅
2020
graphite and white pencil on paper
紙:27.4x37.8cm
画:26.4x36.8cm

詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/genryuhenotabi

『内なる自然』と同じ画材ですが、ここでは散歩道で何気なく気に留めた木の肌あいを細かくモノトーンで写生しました。線描ではなく量塊の表現も試みてみたかったからです。

制作の途中で、「見立て」というアイデアが浮かびました。古来から、石や流木などを景色に見立てる文化が日本や韓国、中国にありますが、ミクロの世界に大きなマクロの宇宙を見ようとする視点をこの作品にも入れてみることにしました。

そのアイデアは、大雨の前に必ず家に上がってくる蟻に教えてもらいました。蟻になってみた私には、これが大陸の見知らぬ岩山の景色に見えて来たのでした。

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幻想の旅

幻想の旅
2020
pastel on paper
紙:27.4x37.8cm
画:26.4x36.8cm

詳細:https://kawadayuko.jp/atelier-gallery/product/gensounotabi

パステルを使いこなすことは、目下私にとってとてもやりがいのある制作になっています。思ったよりも大変難しい描画材です。まだまだ手慣れているわけではないのですが、拙さや不自由さこそに、自分なりの工夫の余地があり、それが新しい可能性につながるように思っています。セヌリエやシュミンケのパステルの色味の美しさを引き出して、作品数を増やして行きたいと思っています。

この作品はもともとは『源流への旅』と同じように木肌からモチーフをとっていますが、色味を少し冒険して、雪から氷に埋もれたようにして進めていたところ、ふと横にした時に、かつて見た夢を思い出すことになりました。

子供の頃に、私は中国の山々を下に浮遊した夢を見たことがあります。足下に、白い雲が浮かんでいる光景は、今でもリアルに私の記憶の中にあります。人間は宙に浮かぶことができるのだなとつくづく楽しい夢でした。

この作品には、そのような忘れかけていた夢の記憶が無意識に再現されたようでした。

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お詫び

今月は、文章が長くなってしまったため、『画家川田祐子自伝』は割愛致しました。楽しみにしている方々にお詫び申し上げます。次号を是非、お楽しみに。

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次号は8月20日の送信予定です。

(かわだ ゆうこ)

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YUKO KAWADA Official Site

http://kawadayuko.jp